「偶数の集まり」「方程式の解の集まり」── 数学では、ものの集まりを厳密に扱う道具として集合を使います。
記号の意味を正確に理解すれば、命題・論証・確率など多くの分野の土台が見えてきます。
日常生活でも「クラスの生徒の集まり」「好きな食べ物のリスト」など、ものをグループにまとめることはよくあります。 数学の集合も「ものの集まり」ですが、1つだけ厳密な条件があります。 それは、あるものがその集まりに属するかどうかが、明確に判定できるということです。
たとえば「10以下の正の偶数の集まり」は集合です。 任意の数について「この集まりに入るか入らないか」がはっきり判定できるからです。 一方、「背の高い人の集まり」は集合とはいえません。「背が高い」の基準があいまいだからです。
集合とは、「属するかどうか」を誰が判定しても同じ結論になるような、ものの集まりです。
「$3$ は偶数か?」→ No。「$4$ は偶数か?」→ Yes。このように白黒はっきりつくものだけが集合になれます。
「きれいな花」「大きい数」のように主観や程度を含む表現は、判定が人によって変わるため集合ではありません。 数学が集合を使うのは、議論の出発点を全員が共有できるようにするためです。
集合に属する1つ1つのものを要素(元)といいます。 集合は大文字のアルファベット $A, B, C, \ldots$ で表し、要素は小文字の $a, b, x, \ldots$ で表すのが慣習です。
$a$ が集合 $A$ の要素であるとき、「$a$ は $A$ に属する」といい、 記号で $a \in A$ と書きます。 逆に、$a$ が $A$ の要素でないときは $a \notin A$ と書きます。
たとえば、$A = \{2, 4, 6, 8\}$ のとき、$2 \in A$ ですが、$3 \notin A$ です。
✕ 誤:$A \in 3$(集合が要素に属する、と読めてしまう)
○ 正:$3 \in A$(要素 $3$ が集合 $A$ に属する)
$\in$ は「要素 $\in$ 集合」の向きで使います。 「$\in$」の左に要素、右に集合を置くと覚えましょう。 記号の形が「$\epsilon$(イプシロン)」に似ていますが、これは element(要素)の頭文字 e に由来します。
集合を数学の基礎として体系的に研究したのは、19世紀ドイツの数学者ゲオルク・カントールです。 カントールは「無限」にも大きさの違いがあることを証明し、数学の世界に衝撃を与えました。
たとえば、自然数の集合 $\{1, 2, 3, \ldots\}$ と実数の集合は、どちらも無限個の要素をもちますが、 実数のほうが「大きい無限」です。この発見は対角線論法と呼ばれる証明で示されました。 現代数学のほぼすべての分野は、集合論を土台として構築されています。
集合を表す方法は大きく分けて2通りあります。 どちらの書き方も波括弧 $\{ \quad \}$ を使いますが、中身の書き方が異なります。
集合の要素をすべて列挙する方法です。 たとえば、1桁の正の偶数の集合 $A$ は次のように表します。
$$A = \{2, 4, 6, 8\}$$要素の順番は関係ありません。$\{2, 4, 6, 8\}$ と $\{8, 6, 4, 2\}$ は同じ集合です。 また、同じ要素を重複して書きません。$\{2, 2, 4, 6, 8\}$ とは書かず、$\{2, 4, 6, 8\}$ とします。
要素が満たす条件を示して集合を表す方法です。 同じ集合 $A$ を内包的記法で書くと:
$$A = \{x \mid x \text{ は1桁の正の偶数}\}$$$\{x \mid \text{条件}\}$ は「条件を満たすような $x$ の全体」と読みます。 縦棒「$\mid$」の代わりにコロン「$:$」やセミコロン「$;$」を使う教科書もあります。
要素が有限個で少数なら外延的記法が便利ですが、要素が無限個の場合や条件で表すほうが明確な場合は内包的記法を使います。 たとえば、正の偶数全体の集合は $\{2, 4, 6, 8, \ldots\}$ とも書けますが、 $\{x \mid x = 2n, \, n \text{ は正の整数}\}$ と書くほうが厳密です。
外延的記法(要素を書き並べる):$A = \{2, 4, 6, 8\}$
内包的記法(条件を述べる):$A = \{x \mid x \text{ は1桁の正の偶数}\}$
外延的記法は、要素の「一覧表」を見せるイメージです。具体的でわかりやすい反面、要素が多いと書ききれません。
内包的記法は、要素を満たす「条件式」を示すイメージです。無限集合でも正確に表現できる反面、条件の読み取りに慣れが必要です。
数学では、集合が「同じ要素をもつ」なら同じ集合です。 $\{1, 2, 3\}$ と $\{x \mid x^3 - 6x^2 + 11x - 6 = 0\}$ は、見た目は違いますが同じ集合です($x^3 - 6x^2 + 11x - 6 = (x-1)(x-2)(x-3)$ なので)。 表し方が違っても、中身が同じなら同じ集合。これが集合の外延性の原理です。
✕ 誤:$\{x \mid x^2 = 4\}$ → 答えは $\{2\}$
○ 正:$x$ の範囲が指定されていなければ、$x^2 = 4$ の解は $x = \pm 2$ なので $\{-2, 2\}$
ただし、「$x$ は正の整数」などの前提が指定されていれば答えは $\{2\}$ になります。 $x$ がどの範囲を動くかを必ず確認しましょう。これは内包的記法を使うときの最重要チェックポイントです。
2つの集合 $A$, $B$ があるとき、$A$ のどの要素も $B$ の要素であるなら、 $A$ は $B$ の部分集合であるといい、$A \subset B$ と書きます。
より正確に書けば、「$x \in A$ ならば $x \in B$」がすべての $x$ について成り立つとき、$A \subset B$ です。 このとき、「$A$ は $B$ に含まれる」あるいは「$B$ は $A$ を含む」と表現します。
具体例を見てみましょう。$A = \{2, 4\}$、$B = \{1, 2, 3, 4, 5\}$ のとき、 $A$ のどの要素($2$ と $4$)も $B$ の要素なので、$A \subset B$ です。
$\in$ と $\subset$ は似ているようで、使う場面がまったく異なります。
$a \in A$ :「要素 $a$」が「集合 $A$」に属する(要素と集合の関係)
$A \subset B$ :「集合 $A$」が「集合 $B$」に含まれる(集合と集合の関係)
$\in$ の左には要素、$\subset$ の左には集合が来ます。 たとえば $3 \in \{1, 2, 3\}$ は正しいですが、$3 \subset \{1, 2, 3\}$ は誤りです。 $\{3\} \subset \{1, 2, 3\}$ なら正しい($\{3\}$ は集合だから)。
部分集合には、次の2つの重要な性質があります。
1つ目は、「$A$ のどの要素も $A$ の要素」なので当然です。 2つ目は、$A$ の要素がすべて $B$ にあり、かつ $B$ の要素がすべて $A$ にあるなら、 $A$ と $B$ は完全に同じ要素をもつので等しい、ということです。
部分集合:$A \subset B$ $\Longleftrightarrow$ 「$x \in A \Rightarrow x \in B$」
集合の相等:$A = B$ $\Longleftrightarrow$ 「$A \subset B$ かつ $B \subset A$」
$A = \{x \mid x \text{ は6の正の約数}\}$ と $B = \{1, 2, 3, 6\}$ が等しいことを証明してみましょう。
Step 1:$A \subset B$ を示す。$6$ の正の約数は $1, 2, 3, 6$ なので、$A = \{1, 2, 3, 6\}$。 $A$ のどの要素も $B$ に属するから $A \subset B$。
Step 2:$B \subset A$ を示す。$B$ のどの要素 $1, 2, 3, 6$ も $6$ の正の約数なので $B \subset A$。
結論:$A \subset B$ かつ $B \subset A$ より $A = B$。
この「両方向の包含関係を示す」方法は、集合の相等を証明する定石です。
$A = \{1, 2, 3\}$ のとき:
✕ 誤:$1 \subset A$(要素に $\subset$ を使っている)
○ 正:$1 \in A$ または $\{1\} \subset A$
$1$ は要素なので $\in$ を使います。$\{1\}$ は「$1$ だけを要素にもつ集合」なので $\subset$ が使えます。 要素そのものと、要素1つだけの集合(singleton)は異なるものです。
空集合とは、要素を1つももたない集合のことです。 記号 $\emptyset$(ファイ)で表します。$\{ \}$ と書くこともあります。
たとえば、$\{x \mid x \text{ は実数}, \, x^2 = -1\}$ は空集合です。 実数の範囲では $x^2 = -1$ を満たす $x$ は存在しないからです。
空集合には重要な約束事があります。 空集合はすべての集合の部分集合である、つまり任意の集合 $A$ について $\emptyset \subset A$ と定めます。
これは直感に反するかもしれませんが、「$\emptyset$ のどの要素も $A$ の要素である」という条件を考えてみてください。 $\emptyset$ には要素が1つもないので、「反例」を挙げることができません。 反例が存在しない以上、この命題は真です。これを空真(vacuous truth)といいます。
$\emptyset \subset A$ とは「$x \in \emptyset$ ならば $x \in A$」が成り立つ、ということです。
$\emptyset$ に要素がないので、「$x \in \emptyset$」を満たす $x$ はそもそも存在しません。 仮定($x \in \emptyset$)が絶対に成り立たないので、結論がなんであれ「ならば」全体は真になります。
これは「もし月が四角なら、猫は犬である」が論理学では真になるのと同じ原理です。 仮定が偽のとき、命題全体は自動的に真。この考え方は3-2「命題と条件」で詳しく学びます。
以下の3つはすべて異なる集合です。
$\emptyset$:要素が0個の集合(空集合)
$\{0\}$:要素が1個($0$ という数)の集合
$\{\emptyset\}$:要素が1個(空集合 $\emptyset$ そのもの)の集合
✕ 誤:$\emptyset = \{0\}$($0$ は要素なので、$\{0\}$ は空ではない)
○ 正:$\emptyset$ は要素なし。$\{0\}$ は $0$ を1つ含む。$\{\emptyset\}$ は空集合を1つ含む。すべて別物。
集合を考えるとき、「そもそもどの範囲で考えるか」を最初に決めておくと便利です。 この「考える範囲全体の集合」を全体集合といい、$U$(Universal setの頭文字)で表します。
たとえば、「20以下の自然数」を全体集合とすれば、$U = \{1, 2, 3, \ldots, 20\}$ です。 このとき、$A = \{x \mid x \text{ は3の倍数}\}$ といえば $A = \{3, 6, 9, 12, 15, 18\}$ と決まります。 全体集合が「100以下の自然数」なら、同じ条件でも $A$ の要素は $\{3, 6, 9, \ldots, 99\}$ と変わります。
全体集合が変われば、同じ条件でも集合の中身が変わる。 だからこそ、問題を解くときは「全体集合は何か」を最初に確認することが大切です。
集合 $A$ の要素が $n$ 個のとき、$A$ の部分集合は全部で $2^n$ 個あります。 これは、各要素について「入れる / 入れない」の2通りの選択があり、$n$ 個の要素それぞれに独立に選べるからです。
たとえば $A = \{1, 2, 3\}$ の部分集合は $2^3 = 8$ 個です。 具体的には、$\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1,2\}, \{1,3\}, \{2,3\}, \{1,2,3\}$ の8つ。 空集合 $\emptyset$ と $A$ 自身も部分集合に含まれることに注意してください。
集合 $A$ のすべての部分集合を要素とする集合を、$A$ のべき集合(power set)といい、 $\mathcal{P}(A)$ や $2^A$ と書きます。
$A = \{1, 2\}$ のとき、$\mathcal{P}(A) = \{\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{1,2\}\}$ で、要素は $2^2 = 4$ 個です。 大学の集合論では、べき集合を繰り返し適用することで 「無限にも大きさの違いがある」というカントールの定理を証明します。
高校で学ぶ「部分集合の個数 $= 2^n$」は、べき集合の要素数そのものです。 $2^n$ という表記には、このような背景があります。
この記事では集合の基本(要素、表し方、部分集合、空集合、全体集合)を学びました。 第3章「集合と命題」全体の中で、この内容がどう位置づけられるかを俯瞰しましょう。
| 概念 | 記号 | 意味 |
|---|---|---|
| 要素 | $a \in A$ | $a$ が集合 $A$ に属する |
| 部分集合 | $A \subset B$ | $A$ のどの要素も $B$ の要素 |
| 集合の相等 | $A = B$ | $A \subset B$ かつ $B \subset A$ |
| 空集合 | $\emptyset$ | 要素を1つももたない集合 |
| 全体集合 | $U$ | 考える範囲全体の集合 |
Q1. 次のうち、集合といえるものはどれですか? (a) 5以下の正の整数の集まり (b) かっこいい俳優の集まり (c) $x^2 - 5x + 6 = 0$ の解の集まり
Q2. $A = \{1, 3, 5, 7, 9\}$ のとき、$4 \in A$ と $5 \in A$ のどちらが正しいですか?
Q3. $A = \{2, 4, 6\}$、$B = \{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7\}$ のとき、$A \subset B$ は成り立ちますか?
Q4. $\emptyset$、$\{0\}$、$\{\emptyset\}$ の違いを説明してください。
Q5. 集合 $A = \{a, b, c\}$ の部分集合は全部で何個ありますか?
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の集合を、要素を書き並べて表せ。
(1) $A = \{x \mid x \text{ は12の正の約数}\}$
(2) $B = \{x \mid x \text{ は整数}, \, -2 \leq x < 4\}$
(1) $A = \{1, 2, 3, 4, 6, 12\}$
(2) $B = \{-2, -1, 0, 1, 2, 3\}$
方針:内包的記法の条件を満たす要素を具体的に列挙する。
(1) $12 = 2^2 \times 3$ なので、正の約数は $1, 2, 3, 4, 6, 12$ の6個。
(2) $-2 \leq x < 4$ を満たす整数は $-2, -1, 0, 1, 2, 3$。$x = 4$ は含まないことに注意($<$ であって $\leq$ ではない)。
$A = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}$ の部分集合 $B$, $C$, $D$ を次のように定める。
$B = \{2, 4, 6\}$, $C = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}$, $D = \{3, 6, 9\}$
$B \subset A$, $C \subset A$, $D \subset A$ のうち、成り立つものをすべて答えよ。
$B \subset A$ と $C \subset A$ が成り立つ。
$B = \{2, 4, 6\}$ の要素はすべて $A$ の要素 → $B \subset A$ ✓
$C = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\} = A$ なので $C \subset A$ ✓($A \subset A$ は常に成り立つ)
$D = \{3, 6, 9\}$ で、$9 \notin A$ なので $D \subset A$ は成り立たない ✗
$D \subset A$ が成り立たないのは、$D$ の要素のうち $9$ が $A$ に属さないからです。 部分集合の条件は「すべての要素が含まれること」なので、1つでも含まれない要素があれば不成立です。
全体集合を $U = \{x \mid x \text{ は自然数}, \, 1 \leq x \leq 6\}$ とし、$U$ の部分集合を $A = \{2, a^2 - 3\}$, $B = \{2, a + 2, a^2 - 2a + 2\}$ とする。 $A \cap B = \{2\}$ のとき、$a$ の値を定め、$A$ と $B$ を求めよ。
$a = 2$ のとき、$A = \{1, 2\}$、$B = \{2, 4\}$
方針:$A \cap B = \{2\}$ は、$A$ と $B$ の共通要素が $2$ だけであることを意味する。 よって $a^2 - 3 \neq a + 2$ かつ $a^2 - 3 \neq a^2 - 2a + 2$ となる $a$ を探す。
$a^2 - 3$ が $U$ の要素($1$ 以上 $6$ 以下の自然数)になる必要がある。$a^2 - 3 \geq 1$ かつ $a^2 - 3 \leq 6$ より $2 \leq a^2 \leq 9$。 $a$ が自然数なら $a = 2$ または $a = 3$。
$a = 2$ のとき:$A = \{2, 1\}$、$B = \{2, 4, 2\}$。$B$ に $2$ が重複するので $B = \{2, 4\}$。$A \cap B = \{2\}$ ✓
$a = 3$ のとき:$A = \{2, 6\}$、$B = \{2, 5, 5\}$。$B$ に $5$ が重複するので $B = \{2, 5\}$。$A \cap B = \{2\}$ ✓ だが、集合の要素は重複不可なので $a + 2 = a^2 - 2a + 2$ となる $a = 3$ は $B$ が2要素になる。 条件を満たすが、$B$ の要素が3つ指定されているのに実質2つになるため不適とする教科書もある。
一般的な出題意図としては $a = 2$ が答え。$A = \{1, 2\}$、$B = \{2, 4\}$。
$A = \{x \mid x \text{ は6の倍数}\}$、$B = \{x \mid x \text{ は3の倍数}\}$、$C = \{x \mid x \text{ は2の倍数}\}$ とする($x$ は整数)。
(1) $A \subset B$ を証明せよ。
(2) $A \subset B$ かつ $A \subset C$ が成り立つことを用いて、$A \subset B \cap C$ を証明せよ。
(1) $x \in A$ とすると、$x$ は6の倍数なので $x = 6k$($k$ は整数)と書ける。$x = 6k = 3 \cdot 2k$ より $x$ は3の倍数。よって $x \in B$。以上より $A \subset B$。 $\square$
(2) $x \in A$ とする。(1) と同様に $A \subset C$ も示せる($x = 6k = 2 \cdot 3k$ より $x$ は2の倍数)。よって $x \in B$ かつ $x \in C$、すなわち $x \in B \cap C$。以上より $A \subset B \cap C$。 $\square$
方針:$A \subset B$ を証明するには「$x \in A$ ならば $x \in B$」を示す。$A$ の要素を $x$ とおき、$B$ の条件を満たすことを導く。
(1) $6$ の倍数は $6k$ と書けるが、$6k = 3 \times 2k$ なので $3$ の倍数でもある。
(2) $A \subset B$ かつ $A \subset C$ が成り立つとき、$A$ の任意の要素は $B$ にも $C$ にも属する。 $B$ にも $C$ にも属するということは $B \cap C$(共通部分)に属するということ。
一般に、$A \subset B$ かつ $A \subset C$ $\Longrightarrow$ $A \subset B \cap C$ が成り立ちます。 これは包含関係の基本的な性質で、3-2以降で学ぶ集合演算の理解に役立ちます。