第2章 2次関数

2次不等式
─ 放物線で「不等式の解」を見る

2次不等式は、放物線が $x$ 軸の上にあるか下にあるかを読み取る問題です。
グラフと代数を融合させることで、判別式による場合分けも自然に理解できます。

1なぜ「不等式」をグラフで解くのか ─ 代数と幾何の融合

1次不等式 $2x - 3 > 0$ は、移項して $x > \dfrac{3}{2}$ と機械的に解けます。 しかし2次不等式 $x^2 - 5x + 6 > 0$ になると、単純な移項では $x$ の範囲が出ません。 左辺が $x$ の2次式なので、$x$ の値によって正になったり負になったりするからです。

ここで力を発揮するのが2次関数のグラフです。 $y = x^2 - 5x + 6$ のグラフ(放物線)を描けば、 $y > 0$ となる $x$ の範囲、つまり放物線が $x$ 軸より上にある部分が 不等式の解になります。

💡 ここが本質:2次不等式 = 放物線が $x$ 軸の上/下にある範囲

2次不等式 $ax^2 + bx + c > 0$ の解とは、2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフが $x$ 軸より上にある部分($y > 0$ の部分)の $x$ の範囲です。

同様に、$ax^2 + bx + c < 0$ の解は、グラフが$x$ 軸より下にある部分($y < 0$ の部分)。

つまり、2次不等式を解くとは「放物線と $x$ 軸の位置関係を読み取る」ことにほかなりません。 だからこそ、$x$ 軸との交点(2次方程式の解)と放物線の開く向き($a$ の符号)が決定的に重要なのです。

なぜ因数分解だけでは不十分なのか

$x^2 - 5x + 6 > 0$ を因数分解すると $(x - 2)(x - 3) > 0$ です。 「2つの数の積が正になるのは、両方とも正か、両方とも負のとき」という場合分けで解けます。

しかし、この方法には限界があります。$x^2 - 2x + 1 > 0$ のように重解をもつ場合、 あるいは $x^2 + x + 1 > 0$ のように実数解をもたない場合、 因数分解による場合分けでは対処しにくくなります。

グラフを使えば、これらすべてのケースを統一的に扱えます。 放物線が $x$ 軸と2点で交わるか、接するか、交わらないかの3パターンに帰着するだけです。 この3パターンは、2-3で学んだ判別式 $D = b^2 - 4ac$ で完全に分類できます。

⚠️ 落とし穴:$a < 0$ のとき、まず両辺に $-1$ をかける

2次不等式は $a > 0$(下に凸)の形で考えるのが基本です。

✕ 誤:$-x^2 + 3x - 2 > 0$ をそのまま上に凸の放物線で考えようとする(混乱しやすい)

○ 正:両辺に $-1$ をかけて $x^2 - 3x + 2 < 0$ に変換。不等号の向きが逆になることに注意。 これで下に凸の放物線で考えられます。

不等式の両辺に負の数をかけると、不等号の向きが逆になるのは1次不等式と同じルールです。

🔬 深掘り:不等式とグラフの対応 ── 集合論的な見方

2次不等式 $f(x) > 0$ の解の集合を $S$ とすると、$S = \{x \in \mathbb{R} \mid f(x) > 0\}$ です。 これはグラフ $y = f(x)$ の$x$ 軸より上にある部分の $x$ 座標の集合と一致します。

大学数学では、関数の符号が変わる点(零点)で実数直線を区間に分割し、 各区間での符号を調べる符号表(sign chart)の手法を使います。 高校で学ぶ「グラフから読み取る」方法は、この符号表を視覚的に行っていることになります。

2基本パターン ─ $D > 0$ のとき

まず最も基本的なパターンから始めましょう。 2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$($a > 0$)が異なる2つの実数解 $\alpha, \beta$($\alpha < \beta$)をもつ場合です。 このとき判別式 $D = b^2 - 4ac > 0$ です。

下に凸の放物線 $y = ax^2 + bx + c$ は、$x = \alpha$ と $x = \beta$ で $x$ 軸と交わります。 放物線の形から、次のことが読み取れます。

  • $x < \alpha$ のとき:放物線は $x$ 軸より($y > 0$)
  • $\alpha < x < \beta$ のとき:放物線は $x$ 軸より($y < 0$)
  • $x > \beta$ のとき:放物線は $x$ 軸より($y > 0$)
📐 2次不等式の解($a > 0$, $D > 0$, 解 $\alpha < \beta$)

$ax^2 + bx + c > 0$ の解:$x < \alpha$ または $x > \beta$

$ax^2 + bx + c < 0$ の解:$\alpha < x < \beta$

$ax^2 + bx + c \geq 0$ の解:$x \leq \alpha$ または $x \geq \beta$

$ax^2 + bx + c \leq 0$ の解:$\alpha \leq x \leq \beta$

※ $> 0$ は「$x$ 軸より上」、$< 0$ は「$x$ 軸より下」。等号付き($\geq, \leq$)のときは交点を含む。

具体例で手順を確認する

$x^2 - 5x + 6 > 0$ を解いてみましょう。

▷ 解法のステップ

Step 1:左辺を因数分解(または解の公式)で $x$ 軸との交点を求める。

$x^2 - 5x + 6 = (x - 2)(x - 3) = 0$ より $x = 2, 3$

Step 2:$a = 1 > 0$ なので下に凸の放物線。$x = 2, 3$ で $x$ 軸と交わる。

Step 3:$y > 0$($x$ 軸より上)の範囲を読み取る。

答え:$x < 2$ または $x > 3$

💡 ここが本質:「外側」か「内側」かはグラフの形で決まる

$a > 0$(下に凸)のとき、放物線は2つの解 $\alpha, \beta$ の外側で正、内側で負です。

$ax^2 + bx + c > 0$ → 解は外側($x < \alpha$ または $x > \beta$)

$ax^2 + bx + c < 0$ → 解は内側($\alpha < x < \beta$)

これは暗記する必要はありません。下に凸の放物線は「2つの交点の間で $x$ 軸の下に潜り、 外側では上に出る」という形をしているので、グラフをイメージすれば自然にわかります。

因数分解できないときは解の公式を使う

$2x^2 - 3x - 1 > 0$ のように整数で因数分解できない場合は、解の公式を使います。

$2x^2 - 3x - 1 = 0$ の解は $x = \dfrac{3 \pm \sqrt{9 + 8}}{4} = \dfrac{3 \pm \sqrt{17}}{4}$。

$a = 2 > 0$ なので下に凸。$\alpha = \dfrac{3 - \sqrt{17}}{4}$, $\beta = \dfrac{3 + \sqrt{17}}{4}$ として、 $2x^2 - 3x - 1 > 0$ の解は $x < \alpha$ または $x > \beta$。

⚠️ 落とし穴:「または」と「かつ」の書き間違い

$x^2 - 5x + 6 > 0$ の解は「$x < 2$ または $x > 3$」です。

✕ 誤:$x < 2$ かつ $x > 3$(これを同時に満たす $x$ は存在しない!)

○ 正:$x < 2$ または $x > 3$

解が2つの区間に分かれるときは「または」、1つの区間のときは不等式で範囲を表します。 グラフで確認すれば、$x$ 軸の上にある部分が左右2か所に分かれていることが見えるので、 「または」が自然だとわかります。

⚠️ 落とし穴:等号の有無を見落とす

$x^2 - 5x + 6 \geq 0$ と $x^2 - 5x + 6 > 0$ では答えが違います。

✕ 誤:$x^2 - 5x + 6 \geq 0$ の解を「$x < 2$ または $x > 3$」と書く

○ 正:$x^2 - 5x + 6 \geq 0$ の解は「$x \leq 2$ または $x \geq 3$」

等号付きの不等式($\geq, \leq$)では、$x$ 軸との交点($y = 0$ の点)も解に含まれます。 $x = 2, 3$ で $y = 0$ なので、この2点を含めます。

3判別式による場合分け ─ $D = 0$, $D < 0$ のとき

Section 2では $D > 0$(放物線が $x$ 軸と2点で交わる)の場合を扱いました。 しかし、放物線が $x$ 軸と接する場合($D = 0$)や、 交わらない場合($D < 0$)もあります。 判別式の値によって不等式の解がどう変わるかを整理しましょう。

$D = 0$ のとき ── 放物線が $x$ 軸に接する

$ax^2 + bx + c = 0$($a > 0$)が重解 $x = \alpha$ をもつとき、 放物線は $x$ 軸と1点で接します。 放物線はこの接点を除いて常に $x$ 軸の上にあります。

たとえば $x^2 - 6x + 9 \geq 0$ を考えます。$x^2 - 6x + 9 = (x - 3)^2$ なので、 $(x - 3)^2$ は2乗ですから常に $0$ 以上。等号は $x = 3$ のとき。 よって答えはすべての実数です。

一方、$x^2 - 6x + 9 > 0$(等号なし)の場合はどうでしょうか。 $(x - 3)^2 > 0$ は $x \neq 3$ のときに成り立ちます。 よって答えは$x = 3$ 以外のすべての実数($x \neq 3$)です。

📐 2次不等式の解($a > 0$, $D = 0$, 重解 $\alpha$)

$ax^2 + bx + c > 0$ の解:$x \neq \alpha$ であるすべての実数($\alpha$ 以外のすべての実数)

$ax^2 + bx + c \geq 0$ の解:すべての実数

$ax^2 + bx + c < 0$ の解:解なし

$ax^2 + bx + c \leq 0$ の解:$x = \alpha$(1つの値のみ)

※ $D = 0$ のとき、放物線は $x$ 軸に接するだけで「下に潜る」ことがないため、$< 0$ の解は存在しない。
⚠️ 落とし穴:$D = 0$ で $\leq 0$ のとき「解なし」と答える

$x^2 - 6x + 9 \leq 0$ の解を「解なし」と答える人がいますが、これは誤りです。

✕ 誤:$(x-3)^2$ は常に正だから $\leq 0$ を満たす $x$ はない

○ 正:$(x-3)^2$ は常に $0$ 以上。$x = 3$ のとき $(x-3)^2 = 0$ であり、 $0 \leq 0$ は真。よって $x = 3$ は解です。

$\leq$ には等号が含まれています。「ちょうど0になる点」も解に含まれることを忘れないでください。

$D < 0$ のとき ── 放物線が $x$ 軸と交わらない

$a > 0$ で $D < 0$ のとき、放物線は $x$ 軸と交点をもちません。 下に凸の放物線が $x$ 軸と交わらないということは、 放物線全体が$x$ 軸の上にあることを意味します。

たとえば $x^2 + x + 1 > 0$ を考えます。 $D = 1 - 4 = -3 < 0$ なので、放物線 $y = x^2 + x + 1$ は $x$ 軸と交わりません。 $a = 1 > 0$(下に凸)なので、放物線は常に $x$ 軸の上。 よって $x^2 + x + 1 > 0$ はすべての実数で成り立ちます。

逆に、$x^2 + x + 1 < 0$ はどうでしょうか。 放物線が常に $x$ 軸の上にあるのだから、$y < 0$ となる $x$ は存在しません。 よって解なしです。

💡 ここが本質:$D < 0$ で $a > 0$ ならば「常に正」

$a > 0$ かつ $D < 0$ のとき、放物線は $x$ 軸の上にしかありません。 つまり $ax^2 + bx + c > 0$ がすべての実数 $x$ で成り立つのです。

これを「絶対不等式」と呼びます。 平方完成すると $a\!\left(x + \dfrac{b}{2a}\right)^{\!2} - \dfrac{D}{4a}$ となり、 $a > 0$ かつ $D < 0$ なら $-\dfrac{D}{4a} > 0$ なので、頂点の $y$ 座標が正。 下に凸の放物線の最低点が正なのだから、全体が正であることは明白です。

3パターンの一覧表

$a > 0$ のとき、判別式 $D$ の符号による2次不等式の解を一覧にまとめます。

$D > 0$(2交点 $\alpha < \beta$)$D = 0$(接点 $\alpha$)$D < 0$(交点なし)
$> 0$$x < \alpha$ または $x > \beta$$x \neq \alpha$すべての実数
$\geq 0$$x \leq \alpha$ または $x \geq \beta$すべての実数すべての実数
$< 0$$\alpha < x < \beta$解なし解なし
$\leq 0$$\alpha \leq x \leq \beta$$x = \alpha$解なし

この表を丸暗記する必要はありません。 下に凸の放物線が $x$ 軸とどう交わるかをイメージすれば、すべて導けます。

▷ なぜ $a > 0$, $D < 0$ なら「常に正」と言えるのか ── 平方完成による証明

$f(x) = ax^2 + bx + c$($a > 0$)を平方完成します。

$$f(x) = a\!\left(x + \frac{b}{2a}\right)^{\!2} + \frac{4ac - b^2}{4a} = a\!\left(x + \frac{b}{2a}\right)^{\!2} - \frac{D}{4a}$$

$a > 0$ なので $a\!\left(x + \dfrac{b}{2a}\right)^{\!2} \geq 0$。

$D < 0$ かつ $a > 0$ なので $-\dfrac{D}{4a} > 0$。

よって $f(x) \geq 0 + (-\dfrac{D}{4a}) > 0$。

つまり、$f(x)$ はすべての実数 $x$ に対して厳密に正です。

この証明は、頂点の $y$ 座標 $q = -\dfrac{D}{4a}$ が正であることを示しているのと同じです。 下に凸の放物線の最も低い点(頂点)が $x$ 軸より上にあれば、全体が上にあるのは当然です。

💡 ここが本質:判別式 $D$ は「頂点の高さ」を表している

頂点の $y$ 座標は $q = -\dfrac{D}{4a}$ です。つまり、$D$ は頂点の高さと直結しています。

$D > 0$ → $q < 0$($a > 0$ のとき)→ 頂点が $x$ 軸の下 → 放物線が $x$ 軸を貫く → 2交点

$D = 0$ → $q = 0$ → 頂点が $x$ 軸上 → 接する → 1接点

$D < 0$ → $q > 0$($a > 0$ のとき)→ 頂点が $x$ 軸の上 → 交わらない → 常に正

判別式を「方程式が解をもつかどうかの指標」としてだけ捉えるのではなく、 「放物線の頂点がどの高さにあるか」として捉えると、2次不等式の全パターンが一気に見通せます。

🔬 深掘り:正定値2次形式 ── 大学の線形代数への入口

$a > 0$ かつ $D < 0$ のとき、$f(x) = ax^2 + bx + c > 0$ がすべての $x$ で成り立ちます。 このような2次式を正定値(positive definite)と呼びます。

大学の線形代数では、2変数の2次式 $f(x, y) = ax^2 + 2bxy + cy^2$ が正定値である条件を、 行列 $\begin{pmatrix} a & b \\ b & c \end{pmatrix}$ の固有値がすべて正であること として扱います。1変数の判別式の条件 $a > 0$, $D < 0$ は、 この一般理論の最も簡単な場合です。

4応用パターン ─ 連立不等式・パラメータ問題

基本パターンを理解したら、入試で頻出の応用問題に進みましょう。 大きく3つのパターンに分類できます。

パターン1:連立2次不等式 ── 共通範囲を求める

2つの不等式を同時に満たす $x$ の範囲を求める問題です。 それぞれの不等式を解いてから、数直線上で共通部分をとります。

たとえば、$x^2 - 4x + 3 > 0$ かつ $x^2 - x - 6 \leq 0$ を同時に満たす $x$ の範囲を求めましょう。

1つ目:$x^2 - 4x + 3 = (x - 1)(x - 3) > 0$ より $x < 1$ または $x > 3$。

2つ目:$x^2 - x - 6 = (x - 3)(x + 2) \leq 0$ より $-2 \leq x \leq 3$。

数直線上でこの2つの範囲の共通部分をとると、$-2 \leq x < 1$ が答えです。 ($x > 3$ の部分は $x \leq 3$ と矛盾するので消える。$x < 1$ と $-2 \leq x \leq 3$ の共通部分が $-2 \leq x < 1$。)

⚠️ 落とし穴:連立不等式で「または」と「かつ」を混同する

連立不等式は「かつ」(AND)です。すべての不等式を同時に満たす範囲を求めます。

✕ 誤:それぞれの解の和集合(「または」)をとる

○ 正:それぞれの解の共通部分(「かつ」)をとる

数直線を描いて、すべての条件が重なっている区間を読み取るのが確実です。

パターン2:「すべての $x$ で成り立つ」条件

「$ax^2 + bx + c > 0$ がすべての実数 $x$ で成り立つための条件を求めよ」という問題は、 Section 3の結果を直接使います。

💡 ここが本質:「すべての $x$ で $f(x) > 0$」 = 「グラフが $x$ 軸の上にある」

$ax^2 + bx + c > 0$ がすべての実数 $x$ で成り立つ条件は:

$a > 0$ かつ $D = b^2 - 4ac < 0$

直感的に言えば、「下に凸の放物線が $x$ 軸と交わらない」ことです。

$\geq 0$ の場合は $a > 0$ かつ $D \leq 0$ です(接してもよい)。

注意:$a = 0$ の場合(1次式になる場合)は別途検討が必要です。

具体的に見てみましょう。「$x^2 + 2kx + k + 2 > 0$ がすべての実数 $x$ で成り立つような $k$ の範囲を求めよ。」

$a = 1 > 0$ は常に成り立つので、$D < 0$ を求めます。

$$D = (2k)^2 - 4 \cdot 1 \cdot (k + 2) = 4k^2 - 4k - 8 < 0$$

$k^2 - k - 2 < 0$ つまり $(k - 2)(k + 1) < 0$。よって $-1 < k < 2$。

パラメータ $k$ についての2次不等式を解くことになるのが面白いところです。 「2次不等式の条件を求めるために、別の2次不等式を解く」という入れ子構造が現れます。

パターン3:文字を含む2次不等式

「$ax^2 + bx + c > 0$ の解が $p < x < q$ であるとき、$a, b, c$ の値を求めよ」のように、 解の情報から元の不等式の係数を逆算する問題です。

$a > 0$ で $D > 0$ のとき、$ax^2 + bx + c < 0$ の解は2つの解の間($\alpha < x < \beta$)でした。 しかし、この問題では「$> 0$ の解が $p < x < q$」と言っています。 $a > 0$ なら $> 0$ の解は「外側」のはず。「内側」が $> 0$ の解になるということは、$a < 0$(上に凸)です。

ここで重要なのは、不等号の向きと解の形から $a$ の符号を判断することです。

🔬 深掘り:2次不等式と実行可能領域 ── 線形計画法への接続

大学の最適化理論では、不等式の条件を満たす領域を実行可能領域(feasible region)と呼びます。 2次不等式の解は1次元の実行可能領域に相当します。

2変数に拡張すると $ax^2 + bxy + cy^2 + dx + ey + f \leq 0$ のような2次不等式は、 $xy$-平面上の領域を定めます。これが2次錐計画(SOCP)半正定値計画(SDP)へと発展し、機械学習や制御理論の基盤となっています。 1変数の2次不等式を数直線で解く経験は、多変数の不等式を図形的に扱うための第一歩です。

🔬 深掘り:「任意の $x$ で成り立つ」と「ある $x$ で成り立つ」── 全称と存在

「すべての実数 $x$ で $f(x) > 0$ が成り立つ」は全称命題($\forall x$)、 「ある実数 $x$ で $f(x) > 0$ が成り立つ」は存在命題($\exists x$)です。

全称命題は「反例が1つもない」こと、存在命題は「例が1つあればよい」こと。 2次不等式で言えば、$\forall x, f(x) > 0$ は「グラフ全体が $x$ 軸の上」、 $\exists x, f(x) > 0$ は「グラフの一部でも $x$ 軸の上にある部分がある」ことに対応します。

この全称と存在の区別は、第3章「集合と命題」で詳しく学びます。

5この章を俯瞰する ─ 2次関数の総まとめ

2-4は第2章「2次関数」の最終節です。 ここで、2-1から2-4までに学んだ内容を鳥の目で俯瞰し、つながりを確認しましょう。

2次関数の4つの柱

テーマ核心
2-1 グラフ放物線の形と位置を理解する平方完成 → 標準形 $a(x-p)^2 + q$
2-2 最大・最小$y$ の値の範囲を求める頂点・端点の比較、場合分け
2-3 2次方程式$y = 0$ となる $x$ を求める判別式 $D$ と解の公式
2-4 2次不等式$y > 0$ / $y < 0$ の $x$ の範囲を求めるグラフと $x$ 軸の位置関係

すべての出発点は2-1の平方完成です。 平方完成によってグラフの形がわかり、そこから最大・最小(2-2)、 $x$ 軸との交点(2-3)、$x$ 軸との上下関係(2-4)と展開していきます。

2-3(方程式)と2-4(不等式)は特に密接です。 2次方程式の解が $x$ 軸との交点を与え、 その交点をもとに放物線の上下を読み取るのが2次不等式です。 つまり、2次不等式は2次方程式の解を「使う」側なのです。

つながりマップ

  • ← 2-1 2次関数のグラフ:平方完成で標準形にする技術がすべての出発点。グラフの形(上に凸/下に凸、軸、頂点)が不等式の解のパターンを決定する。
  • ← 2-2 2次関数の最大・最小:「最小値が正 → すべての $x$ で正」「最大値が負 → すべての $x$ で負」など、最大・最小の知識が2次不等式の「すべての $x$ で成り立つ」条件に直結する。
  • ← 2-3 2次方程式:判別式 $D$ と解の公式が2次不等式の場合分けの道具。方程式の解が不等式の「境界点」を与える。
  • → 第3章 集合と命題:「すべての $x$ で成り立つ」「ある $x$ で成り立つ」は全称命題・存在命題の具体例。2次不等式は命題の真偽を考える良い題材。
  • → 数学II 微分・高次不等式:3次以上の不等式もグラフの上下で解ける。因数分解して零点を求め、各区間の符号を調べる手法は2次不等式と同じ原理。

📋まとめ

  • 2次不等式の解は、放物線 $y = ax^2 + bx + c$ が$x$ 軸の上/下にある範囲。グラフを描けばすべてわかる
  • $a > 0$, $D > 0$(2交点 $\alpha < \beta$)のとき:$> 0$ の解は外側($x < \alpha$ または $x > \beta$)、$< 0$ の解は内側($\alpha < x < \beta$)
  • $a > 0$, $D = 0$(接点 $\alpha$)のとき:$> 0$ の解は $x \neq \alpha$、$< 0$ の解は解なし
  • $a > 0$, $D < 0$(交点なし)のとき:$> 0$ の解はすべての実数、$< 0$ の解は解なし
  • 「すべての $x$ で $ax^2 + bx + c > 0$」の条件は $a > 0$ かつ $D < 0$
  • 連立不等式は各不等式を解いてから数直線上の共通部分をとる

確認テスト

Q1. $x^2 - 7x + 10 > 0$ を解いてください。

▶ クリックして解答を表示$x^2 - 7x + 10 = (x-2)(x-5) = 0$ より $x = 2, 5$。$a = 1 > 0$ で下に凸。$> 0$($x$ 軸の上)の範囲は外側。答え:$x < 2$ または $x > 5$

Q2. $x^2 - 4x + 4 > 0$ を解いてください。

▶ クリックして解答を表示$x^2 - 4x + 4 = (x-2)^2$。$D = 0$ で重解 $x = 2$。$(x-2)^2 > 0$ は $x \neq 2$ のとき成り立つ。答え:$x \neq 2$($x = 2$ 以外のすべての実数)

Q3. $x^2 + 2x + 5 < 0$ を解いてください。

▶ クリックして解答を表示$D = 4 - 20 = -16 < 0$。$a = 1 > 0$ なので放物線は常に $x$ 軸の上。$< 0$ となる $x$ は存在しない。答え:解なし

Q4. $x^2 + 2kx + k + 6 > 0$ がすべての実数 $x$ で成り立つための $k$ の範囲は?

▶ クリックして解答を表示$a = 1 > 0$ は OK。$D = 4k^2 - 4(k + 6) = 4k^2 - 4k - 24 < 0$。$k^2 - k - 6 < 0$、$(k-3)(k+2) < 0$。答え:$-2 < k < 3$

Q5. 連立不等式 $x^2 - 5x + 4 \leq 0$ かつ $x^2 - 2x - 3 > 0$ を解いてください。

▶ クリックして解答を表示1つ目:$(x-1)(x-4) \leq 0$ より $1 \leq x \leq 4$。2つ目:$(x-3)(x+1) > 0$ より $x < -1$ または $x > 3$。共通部分:$1 \leq x \leq 4$ と $x > 3$ の共通部分は $3 < x \leq 4$。答え:$3 < x \leq 4$

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

2-4-1 A 基礎 2次不等式 判別式

次の2次不等式を解け。

(1) $2x^2 - 7x + 3 < 0$

(2) $x^2 - 6x + 9 \leq 0$

(3) $x^2 + 4x + 5 > 0$

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\dfrac{1}{2} < x < 3$

(2) $x = 3$

(3) すべての実数

解説

(1) $2x^2 - 7x + 3 = (2x - 1)(x - 3) = 0$ より $x = \dfrac{1}{2}, 3$。 $a = 2 > 0$ で下に凸。$< 0$(内側)の解は $\dfrac{1}{2} < x < 3$。

(2) $x^2 - 6x + 9 = (x - 3)^2$。$D = 0$、重解 $x = 3$。 $(x-3)^2 \leq 0$ は $(x-3)^2 = 0$ のとき、つまり $x = 3$ のみ。

(3) $D = 16 - 20 = -4 < 0$。$a = 1 > 0$ なので放物線全体が $x$ 軸の上。 $> 0$ はすべての $x$ で成り立つ。答え:すべての実数。

2-4-2 A 基礎 連立不等式

連立不等式 $x^2 - 3x - 4 \leq 0$ かつ $x^2 - x - 2 > 0$ を解け。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$2 < x \leq 4$

解説

方針:各不等式を解き、数直線上で共通部分をとる。

1つ目:$x^2 - 3x - 4 = (x - 4)(x + 1) \leq 0$ より $-1 \leq x \leq 4$。

2つ目:$x^2 - x - 2 = (x - 2)(x + 1) > 0$ より $x < -1$ または $x > 2$。

共通部分:$-1 \leq x \leq 4$ と($x < -1$ または $x > 2$)の共通部分。

$-1 \leq x \leq 4$ と $x < -1$ の共通部分は空($x \leq -1$ かつ $x \geq -1$ なので $x = -1$ だが、$x < -1$ は $x = -1$ を含まない)。

$-1 \leq x \leq 4$ と $x > 2$ の共通部分は $2 < x \leq 4$。

よって答えは $2 < x \leq 4$。

B 発展レベル

2-4-3 B 発展 パラメータ すべての実数

2次不等式 $x^2 + 2(k-1)x + k^2 > 0$ がすべての実数 $x$ で成り立つような 定数 $k$ の値の範囲を求めよ。

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解答

$k > \dfrac{1}{2}$

解説

方針:$x^2$ の係数は $1 > 0$ で常に正。あとは $D < 0$ を求めればよい。

$$\frac{D}{4} = (k-1)^2 - k^2 = k^2 - 2k + 1 - k^2 = -2k + 1$$

$D < 0$ より $\dfrac{D}{4} < 0$、すなわち $-2k + 1 < 0$。

$-2k < -1$ より $k > \dfrac{1}{2}$。

検算:$k = 1$ のとき $x^2 + 2 \cdot 0 \cdot x + 1 = x^2 + 1 > 0$。✓

$k = 0$ のとき $x^2 - 2x + 0 = x(x - 2)$。$x = 0$ で $0$ となり $> 0$ は成り立たない。✓($k = 0$ は条件を満たさない)

採点ポイント
  • $x^2$ の係数が正であることの確認(1点)
  • 判別式 $D$ を正しく計算(3点)
  • $D < 0$ の不等式を正しく解く(3点)
  • 具体的な値で検算(1点)
2-4-4 B 発展 不等式の係数決定 論述

2次不等式 $ax^2 + bx + 3 > 0$ の解が $-1 < x < 3$ であるとき、定数 $a, b$ の値を求めよ。

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解答

$a = -1$, $b = 2$

解説

方針:解の形から $a$ の符号を判断し、$x$ 軸との交点から方程式の解を読み取る。

$ax^2 + bx + 3 > 0$ の解が $-1 < x < 3$(内側)です。 もし $a > 0$(下に凸)なら、$> 0$ の解は外側になるはず。 解が内側であるということは、$a < 0$(上に凸)です。

$ax^2 + bx + 3 = 0$ の解が $x = -1, 3$ です。

$ax^2 + bx + 3 = a(x + 1)(x - 3) = a(x^2 - 2x - 3) = ax^2 - 2ax - 3a$

定数項を比較:$-3a = 3$ より $a = -1$。

$x$ の係数を比較:$b = -2a = -2 \times (-1) = 2$。

検算:$-x^2 + 2x + 3 = -(x^2 - 2x - 3) = -(x+1)(x-3)$。 $-(x+1)(x-3) > 0$ は $(x+1)(x-3) < 0$ と同値で、解は $-1 < x < 3$。✓

採点ポイント
  • $a < 0$ の判断とその根拠(3点)
  • $ax^2 + bx + 3 = a(x+1)(x-3)$ の立式(3点)
  • $a, b$ の値を正しく求める(2点)
  • 検算(2点)