方程式が「等しい」ことを表す式なら、不等式は「大小関係」を表す式です。
1次不等式の解法はシンプルですが、1つだけ注意すべきルールがあります。
「負の数をかけると不等号の向きが変わる」── なぜそうなるのか、原理から理解しましょう。
これまで学んできた方程式は、$3x + 1 = 7$ のように「左辺と右辺が等しい」ことを表す式でした。 これに対して、不等式とは、$3x + 1 > 7$ のように不等号($>$, $<$, $\geq$, $\leq$)を使って 数量の大小関係を表した式のことです。
不等号の左側を左辺、右側を右辺、両方あわせて両辺と呼びます。 等式の場合とまったく同じです。
4つの不等号の意味を整理しておきましょう。
| 不等号 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| $a > b$ | $a$ は $b$ より大きい | $5 > 3$ |
| $a < b$ | $a$ は $b$ より小さい | $2 < 7$ |
| $a \geq b$ | $a$ は $b$ 以上($a > b$ または $a = b$) | $5 \geq 5$, $5 \geq 3$ |
| $a \leq b$ | $a$ は $b$ 以下($a < b$ または $a = b$) | $3 \leq 3$, $3 \leq 5$ |
ここで大切なのは、$\geq$(以上)と $\leq$(以下)は等号を含むという点です。 $5 \geq 5$ は「$5 > 5$ または $5 = 5$」であり、後者が成り立つので正しい式です。
方程式 $2x + 1 = 5$ の解は $x = 2$ という1つの値(数直線上の1点)です。
一方、不等式 $2x + 1 > 5$ の解は $x > 2$ という値の範囲(数直線上の半直線)です。 $x = 3$ でも $x = 10$ でも $x = 2.001$ でも、$x > 2$ を満たすすべての実数が解です。
不等式を解くとは、「不等式を成り立たせるような $x$ の値の範囲を求める」ことです。 この「範囲」という概念を意識することが、不等式を理解する第一歩です。
✕ 誤:「$x \geq 3$ の解に $x = 3$ は含まれない」
○ 正:$x \geq 3$ は「$x > 3$ または $x = 3$」なので、$x = 3$ は含まれます。
数直線上で表すとき、$>$ や $<$ は境界の値を含まない(白丸 $\circ$)、 $\geq$ や $\leq$ は境界の値を含む(黒丸 $\bullet$)で区別します。 入試では、この区別を間違えるだけで不正解になります。
不等式の根底にあるのは、実数の全順序性(どの2つの実数も必ず大小比較できる)です。 任意の実数 $a$, $b$ に対して、$a > b$, $a = b$, $a < b$ のうち、どれか1つだけが成り立ちます。 これを実数の三分律(trichotomy)と呼びます。
大学数学では、複素数のように大小が定義できない数体系も登場します。 たとえば $3 + 2i$ と $1 + 4i$ のどちらが「大きい」かは決められません。 不等式が使えるのは、実数に全順序が備わっているからこそなのです。
不等式を解くには、等式と同じように「両辺に同じ操作をする」ことで変形していきます。 ただし、等式にはない重要なルールが1つあります。 そのルールを理解するために、まず不等式の基本性質を整理しましょう。
$a < b$ のとき、次のことが成り立つ。
性質1(加減):$a + c < b + c$, $\quad a - c < b - c$
性質2(正の数による乗除):$c > 0$ のとき、$ac < bc$, $\quad \dfrac{a}{c} < \dfrac{b}{c}$
性質3(負の数による乗除):$c < 0$ のとき、$ac \boldsymbol{>} bc$, $\quad \dfrac{a}{c} \boldsymbol{>} \dfrac{b}{c}$
性質1と性質2は、等式と同じ感覚で使えます。 問題は性質3です。負の数をかける(または割る)と、不等号の向きが逆転する。 なぜこうなるのでしょうか?
$2 < 5$ は明らかに成り立ちます。両辺に $-1$ をかけてみましょう。
$2 \times (-1) = -2$、$5 \times (-1) = -5$ です。数直線上で見ると、 $2$ は $5$ より左にありますが、$-2$ は $-5$ より右にあります。
つまり、負の数をかけると数直線上の位置関係が反転するのです。 もともと左にあった数が右に、右にあった数が左にくる。 だから大小関係(不等号の向き)が逆転します。
これは「$-1$ をかける = 数直線を原点中心に裏返す」と考えれば直感的です。 裏返せば左右が入れ替わるので、大小が逆になるのは当然です。
$a < b$ かつ $c < 0$ のとき、$ac > bc$ を示します。
$a < b$ より $b - a > 0$(正の数)です。
$c < 0$ より $-c > 0$(正の数)です。
正の数どうしの積は正なので $(b - a) \cdot (-c) > 0$。
展開すると $-bc + ac > 0$、すなわち $ac > bc$。
以上より、$a < b$ かつ $c < 0$ ならば $ac > bc$ が成り立ちます。$\square$
$3 < 6$ の両辺にいろいろな数をかけて確かめましょう。
| かける数 $c$ | 左辺 $3c$ | 右辺 $6c$ | 大小関係 | 不等号 |
|---|---|---|---|---|
| $2$(正) | $6$ | $12$ | $6 < 12$ | 変わらない |
| $-1$(負) | $-3$ | $-6$ | $-3 > -6$ | 逆転! |
| $-2$(負) | $-6$ | $-12$ | $-6 > -12$ | 逆転! |
| $0$ | $0$ | $0$ | $0 = 0$ | (等号に) |
等式と同様に、不等式の両辺を $0$ で割ることはできません。 また、両辺に $0$ をかけると左辺も右辺も $0$ になり、大小関係の情報が失われます。
✕ 誤:$2x > 6$ の両辺を $0$ で割って...... → 意味がない
性質2・性質3は、$c \neq 0$ が前提です。$c = 0$ の場合は別途考える必要があります。
$ax > b$ を解くとき、「両辺を $a$ で割る」と考えたくなります。 しかし $a$ の符号がわからなければ、不等号の向きを変えるべきかどうかわかりません。
✕ 誤:$ax > b$ より $x > \dfrac{b}{a}$($a$ の符号を確認していない)
○ 正:$a > 0$ のとき $x > \dfrac{b}{a}$、$a < 0$ のとき $x < \dfrac{b}{a}$、$a = 0$ のとき別途考える。
文字を含む式で割るときは、必ず符号で場合分けする必要があります。
不等号の向きが変わらない操作:
・両辺に同じ数を加える / 引く
・両辺に正の数をかける / 割る
不等号の向きが変わる操作:
・両辺に負の数をかける / 割る
不等式の性質を理解したところで、いよいよ1次不等式を解きましょう。 1次不等式とは、変数 $x$ について1次($x$ の最高次数が1)の不等式のことです。 たとえば $3x - 5 > 7$ や $2x + 1 \leq 4x - 3$ が1次不等式です。
1次不等式の解法は、1次方程式と基本的に同じです。 ただし、負の数で割る(かける)ときに不等号の向きを変えることだけ注意すれば、 方程式と同じ要領で解けます。
1次不等式を解く手順は、1次方程式とほぼ同じです。
Step 1:$x$ の項を左辺に、定数項を右辺に移項する
Step 2:両辺をまとめて $ax > b$(または $ax < b$ 等)の形にする
Step 3:両辺を $a$ で割る。$a > 0$ なら不等号はそのまま、$a < 0$ なら不等号を逆にする
方程式との唯一の違いは Step 3 の「符号チェック」だけです。
$5x - 3 > 2x + 9$ を解いてみましょう。
Step 1:$x$ の項を左辺に、定数項を右辺に移項する。
$$5x - 2x > 9 + 3$$
Step 2:両辺をまとめる。
$$3x > 12$$
Step 3:両辺を $3$(正の数)で割る。不等号の向きは変わらない。
$$x > 4$$
答え:$x > 4$
次に、負の数で割る場合を見てみましょう。$-2x + 5 \leq 11$ を解きます。
Step 1:定数項を右辺に移項する。
$$-2x \leq 11 - 5$$
Step 2:右辺をまとめる。
$$-2x \leq 6$$
Step 3:両辺を $-2$(負の数)で割る。不等号の向きを逆にする。
$$x \geq -3$$
答え:$x \geq -3$
移項は「両辺に同じ数を加える / 引く」操作なので、不等号の向きは変わりません。
✕ 誤:$3x - 5 > 7$ → $3x > 7 - 5$ としたのに、移項で不等号を変えてしまう
○ 正:移項で不等号が変わることは絶対にありません。不等号が変わるのは、負の数で両辺を割る(かける)ときだけです。
この2つの操作を混同しないようにしましょう。
2つ以上の不等式を同時に満たす $x$ の範囲を求めるのが連立不等式です。 解法は、それぞれの不等式を個別に解いてから、解の共通部分を求めます。
たとえば $\begin{cases} 2x - 1 > 3 \\ 5x + 2 \leq 17 \end{cases}$ を解くと:
第1式:$2x > 4$ より $x > 2$
第2式:$5x \leq 15$ より $x \leq 3$
共通部分は $2 < x \leq 3$ です。 数直線を使って視覚的に確認するとわかりやすいでしょう。
連立不等式の解は、すべての不等式を同時に満たす $x$ の範囲です。 これは集合でいう「共通部分($\cap$)」にあたります。
各不等式の解を数直線上に描き、重なっている部分が連立不等式の解です。 重なる部分がなければ「解なし」です。
連立不等式で表される条件は、大学で学ぶ線形計画法(Linear Programming)の基礎です。 たとえば「利益を最大化する生産計画」を求める問題では、 原材料や時間の制約条件を連立不等式で表し、その範囲内で目的関数を最適化します。
高校の数学IIでも「領域と最大・最小」の問題として登場します。 連立不等式が表す「範囲」の概念は、最適化問題の出発点なのです。
1次不等式は、日常的な場面での「条件を満たす範囲」を求めるツールとして使えます。 ここでは、文章題への応用と整数解の問題を扱います。
不等式の文章題は、次の手順で解きます。
何人かの子どもに果物を配ります。1人に4個ずつ配ると26個余りますが、 1人に9個ずつ配っていくと、最後の子どもは果物をもらえるが他の子どもより少なくなります。 子どもの人数と果物の個数を求めましょう。
Step 1:子どもの人数を $x$ 人とおく。果物の個数は $4x + 26$ 個。
Step 2:1人に9個ずつ配ると最後の1人は他の子より少なくなるので、 $(x - 1)$ 人には9個ずつ配れるが、残りは $9$ 個未満。
配れる条件:$9(x - 1) < 4x + 26$($(x-1)$ 人に9個ずつは配れる)
足りない条件:$4x + 26 < 9x$($x$ 人全員に9個は配れない)
Step 3:連立不等式を解く。
第1式:$9x - 9 < 4x + 26$ → $5x < 35$ → $x < 7$
第2式:$4x + 26 < 9x$ → $26 < 5x$ → $x > 5.2$
よって $5.2 < x < 7$。$x$ は自然数なので $x = 6$。
結論:子ども $6$ 人、果物 $4 \times 6 + 26 = 50$ 個。
不等式の解が数値の範囲で求まったあと、「整数解を求めよ」「整数解の個数を求めよ」と問われることがあります。 このときは、求めた範囲に含まれる整数を数え上げます。
たとえば $-3 < x \leq 5$ を満たす整数は $x = -2, -1, 0, 1, 2, 3, 4, 5$ の8個です。 $x = -3$ は含まれません($<$ は等号を含まない)が、$x = 5$ は含まれます($\leq$ は等号を含む)。
✕ 誤:$-3 \leq x < 5$ の整数解を「$-2, -1, 0, 1, 2, 3, 4$」とする($x = -3$ を見落とす)
○ 正:$-3 \leq x$ なので $x = -3$ は含まれる。$x < 5$ なので $x = 5$ は含まれない。整数解は $-3, -2, -1, 0, 1, 2, 3, 4$ の8個。
端点が含まれるかどうかは、$<$ と $\leq$ の違いだけで決まります。 不等号の等号の有無を必ず確認しましょう。
入試では、パラメータ $a$ を含む不等式の整数解の個数が指定される問題がよく出ます。 たとえば「連立不等式の整数解がちょうど3個になるような $a$ の範囲を求めよ」のような問題です。
このタイプは、まず不等式を $a$ の入った形で解き、 解の範囲に含まれる整数の個数を数直線上で考えます。 「ちょうど3個」になる条件は、解の端点が特定の整数のあいだにあること、として $a$ の範囲を求めます。
1次不等式は、第1章「数と式」の締めくくりにあたるテーマです。 ここまでに学んだ計算技法(整式の展開・因数分解、実数と平方根)が、 不等式の式変形でも活きてきます。
また、不等式は第2章以降でさらに発展します。 2次関数のグラフと組み合わせた「2次不等式」は、入試の最頻出テーマの1つです。
Q1. 不等式 $3x - 7 > 2$ を解いてください。
Q2. 不等式 $-4x + 5 \leq 13$ を解いてください。
Q3. 負の数で不等式の両辺を割ると、不等号の向きが変わるのはなぜですか?
Q4. 連立不等式 $\begin{cases} x + 3 > 1 \\ 2x - 5 \leq 3 \end{cases}$ を解いてください。
Q5. 不等式 $-1 < 2x + 3 \leq 9$ を満たす整数 $x$ をすべて求めてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の不等式を解け。
(1) $3(x - 2) > 5x + 4$
(2) $\dfrac{2x - 1}{3} \leq \dfrac{x + 2}{2}$
(1) $x < -5$
(2) $x \leq 8$
(1) の方針:左辺を展開して整理し、$x$ の係数の符号に注意して割る。
$3x - 6 > 5x + 4$
$3x - 5x > 4 + 6$
$-2x > 10$
両辺を $-2$(負の数)で割る。不等号の向きを逆にする。
$x < -5$
(2) の方針:分母を払ってから整理する。両辺に6(正の数)をかけるので不等号はそのまま。
$6 \cdot \dfrac{2x - 1}{3} \leq 6 \cdot \dfrac{x + 2}{2}$
$2(2x - 1) \leq 3(x + 2)$
$4x - 2 \leq 3x + 6$
$x \leq 8$
連立不等式 $\begin{cases} 3x - 4 > x + 2 \\ 5x - 1 \leq 2(x + 7) \end{cases}$ を解け。また、この連立不等式を満たす整数 $x$ をすべて求めよ。
$3 < x \leq 5$ 整数解:$x = 4, 5$
方針:各不等式を個別に解いてから共通部分を求める。
第1式:$3x - 4 > x + 2$ → $2x > 6$ → $x > 3$ ......①
第2式:$5x - 1 \leq 2x + 14$ → $3x \leq 15$ → $x \leq 5$ ......②
①②の共通部分:$3 < x \leq 5$
$x = 3$ は含まない($>$)、$x = 5$ は含む($\leq$)。
よって整数解は $x = 4, 5$。
ある商品を $x$ 個仕入れる。1個あたりの仕入れ値は200円で、定価は1個あたり350円とする。 ただし、仕入れた商品のうち5個は売れ残り、廃棄するものとする。 利益(売上 $-$ 仕入れ値の合計)が10000円以上になるようにするには、少なくとも何個仕入れればよいか。
79個
方針:$x$ 個仕入れて5個廃棄するので、売れるのは $(x - 5)$ 個。利益の条件を不等式で表す。
売上:$350(x - 5)$ 円
仕入れ値の合計:$200x$ 円
利益 $\geq$ 10000 より:
$$350(x - 5) - 200x \geq 10000$$
$350x - 1750 - 200x \geq 10000$
$150x \geq 11750$
$x \geq \dfrac{11750}{150} = 78.3\overline{3}$
$x$ は自然数なので、$78.3\overline{3}$ 以上の最小の自然数は $x = 79$。
検算:$x = 78$ のとき利益 $= 350 \times 73 - 200 \times 78 = 25550 - 15600 = 9950 < 10000$(不足)。
$x = 79$ のとき利益 $= 350 \times 74 - 200 \times 79 = 25900 - 15800 = 10100 \geq 10000$(OK)。
よって、少なくとも79個仕入れればよい。
$a$ を定数とする。連立不等式 $\begin{cases} 2x - 3 > -5 \\ x - a \leq 0 \end{cases}$ の整数解がちょうど3個であるとき、$a$ の値の範囲を求めよ。
$2 \leq a < 3$
方針:各不等式を解いてから共通部分を求め、整数解が3個になる条件を考える。
第1式:$2x - 3 > -5$ → $2x > -2$ → $x > -1$ ......①
第2式:$x - a \leq 0$ → $x \leq a$ ......②
①②の共通部分:$-1 < x \leq a$
$x > -1$ なので $x = -1$ は含まれない。含まれうる整数は $x = 0, 1, 2, \ldots$ のうち $x \leq a$ を満たすもの。
整数解がちょうど3個($x = 0, 1, 2$)になる条件:
・$x = 2$ が含まれる条件:$a \geq 2$
・$x = 3$ が含まれない条件:$a < 3$
よって $\boldsymbol{2 \leq a < 3}$。
検算:$a = 2$ のとき $-1 < x \leq 2$ → 整数は $0, 1, 2$ → 3個 ✓
$a = 2.9$ のとき $-1 < x \leq 2.9$ → 整数は $0, 1, 2$ → 3個 ✓
$a = 3$ のとき $-1 < x \leq 3$ → 整数は $0, 1, 2, 3$ → 4個 ✗
$a = 1.9$ のとき $-1 < x \leq 1.9$ → 整数は $0, 1$ → 2個 ✗