展開が「かけ算を実行する操作」なら、因数分解は「かけ算に戻す操作」です。
公式の暗記ではなく、「なぜその形に分解できるのか」を原理から理解すれば、どんな式にも対応できます。
1-1で学んだ展開は、積の形で書かれた式をバラして和の形にする操作でした。 たとえば $(x + 2)(x + 3)$ を展開すると $x^2 + 5x + 6$ になります。
因数分解はその逆です。 $x^2 + 5x + 6$ という和の形の式を見て、これを $(x + 2)(x + 3)$ という積の形に戻す操作です。 つまり、展開を「再生」とすれば、因数分解は「逆再生」にあたります。
ここで「因数」という言葉を押さえましょう。 $x^2 + 5x + 6 = (x + 2)(x + 3)$ と書いたとき、$(x + 2)$ と $(x + 3)$ はそれぞれ元の式の因数です。 自然数の素因数分解($12 = 2^2 \times 3$)と同じ発想で、多項式をこれ以上分解できない因数の積に分けるのです。
展開の公式を「右から左」に読めば、それがそのまま因数分解の公式になります。
$$\underbrace{(x+a)(x+b)}_{\text{積の形}} \xrightarrow{\text{展開}} \underbrace{x^2 + (a+b)x + ab}_{\text{和の形}}$$
因数分解はこの矢印を逆にたどる操作です。 $x^2 + (a+b)x + ab$ を見て、「足して $a+b$、掛けて $ab$ になる2数は何か?」を考えれば、積の形に戻せます。
つまり、展開の公式を覚えていれば、因数分解の公式は新たに覚える必要がないのです。
なぜ因数分解が必要なのでしょうか? 大きな理由は方程式を解くためです。 たとえば $x^2 + 5x + 6 = 0$ をそのまま解くのは大変ですが、 $(x+2)(x+3) = 0$ と因数分解できれば、「積が $0$ なら少なくとも一方が $0$」という性質から $x = -2$ または $x = -3$ と即座にわかります。
因数分解は2次方程式・2次不等式・さらには数学IIの高次方程式まで、あらゆる場面で使われる基本技術です。 この記事では、因数分解の基本パターンと、「どの公式を使えばいいか」を判断する方法を身につけましょう。
✕ 誤:「$x^2 + 5x + 6$ を因数分解せよ」と言われて、$(x+2)(x+3) = x^2 + 5x + 6$ と展開してしまう
○ 正:因数分解は「和の形 → 積の形」。$x^2 + 5x + 6 = (x+2)(x+3)$ と書くのが因数分解です。
逆に「展開せよ」と言われたら「積の形 → 和の形」。方向を常に意識しましょう。
自然数の素因数分解($60 = 2^2 \times 3 \times 5$)と多項式の因数分解は、 「合成されたものを基本要素の積に分解する」という同じ原理に基づいています。
大学の代数学(環論)では、整数と多項式を「可換環」という同じ枠組みで統一的に扱います。 どちらの世界でも「これ以上分解できない要素(素数 / 既約多項式)」が存在し、 分解の一意性(本質的に1通りにしか分解できない)という深い定理が成り立ちます。
因数分解で最初にやるべきことは、共通因数がないか確認することです。 これはすべての因数分解の出発点であり、最も基本的かつ重要なステップです。
共通因数とは、多項式の各項すべてに共通して含まれている因数のことです。 たとえば $3x^2 + 6x$ では、$3x^2 = 3x \cdot x$ と $6x = 3x \cdot 2$ なので、 $3x$ が共通因数です。これをくくり出すと
$$3x^2 + 6x = 3x(x + 2)$$となります。分配法則 $A(B + C) = AB + AC$ を逆に使っているだけです。
分配法則は $A(B+C) = AB + AC$ です。この等式を右から左に読むと:
$$AB + AC = A(B+C)$$
これが「共通因数 $A$ をくくり出す」操作の正体です。 各項から共通な部分 $A$ を見つけて外に出し、残りをカッコの中に入れます。
因数分解の第一歩は、必ず「共通因数はないか?」と自分に問いかけること。 これを忘れると、公式を使っても不完全な因数分解になります。
共通因数を見つけるには、各項の係数の最大公約数と文字部分の最低次数を調べます。
たとえば $6a^3b^2 - 9a^2b^3 + 12a^2b$ を因数分解してみましょう。
Step 1:各項の係数を確認。$6, -9, 12$ の最大公約数は $3$。
Step 2:文字 $a$ の各項の次数は $3, 2, 2$。最低次数は $2$ なので $a^2$ が共通。
Step 3:文字 $b$ の各項の次数は $2, 3, 1$。最低次数は $1$ なので $b$ が共通。
結論:共通因数は $3a^2b$。
$$6a^3b^2 - 9a^2b^3 + 12a^2b = 3a^2b(2ab - 3b^2 + 4)$$
✕ 誤:$2x^2 + 4x + 2$ をいきなり公式で因数分解しようとする
○ 正:まず共通因数 $2$ をくくり出す。$2x^2 + 4x + 2 = 2(x^2 + 2x + 1) = 2(x+1)^2$
共通因数を先にくくり出すと、カッコ内の式が単純になり、公式が適用しやすくなります。 「因数分解はまず共通因数」を鉄則として身につけてください。
✕ 誤:$-x^2 + 4x - 4$ を「共通因数なし」と判断してしまう
○ 正:$-1$ も共通因数になりえます。$-x^2 + 4x - 4 = -(x^2 - 4x + 4) = -(x-2)^2$
最高次の項の係数が負のとき、$-1$ をくくり出すと見通しがよくなることが多いです。 符号も「因数」の一部として意識しましょう。
共通因数をくくり出した後、カッコ内の式をさらに因数分解するために使うのが因数分解の公式です。 これらはすべて、展開の公式を逆に読んだものです。
公式1(和の平方)
$$a^2 + 2ab + b^2 = (a+b)^2$$
公式2(差の平方)
$$a^2 - 2ab + b^2 = (a-b)^2$$
公式3(平方の差)
$$a^2 - b^2 = (a+b)(a-b)$$
公式4(和と積)
$$x^2 + (a+b)x + ab = (x+a)(x+b)$$
公式5(たすき掛け)
$$acx^2 + (ad+bc)x + bd = (ax+b)(cx+d)$$
$a^2 + 2ab + b^2 = (a+b)^2$ と $a^2 - 2ab + b^2 = (a-b)^2$ は、 展開の公式 $(a \pm b)^2 = a^2 \pm 2ab + b^2$ の逆です。
この公式を使うポイントは、与えられた式が完全平方式(何かの2乗の形)になっているかを見抜くことです。 具体的には、$3$ つの項があるとき、「両端の2項がそれぞれ何かの2乗であり、真ん中の項がその2倍の積」になっていれば完全平方式です。
例:$x^2 + 6x + 9 = x^2 + 2 \cdot x \cdot 3 + 3^2 = (x+3)^2$
例:$4x^2 - 12xy + 9y^2 = (2x)^2 - 2 \cdot 2x \cdot 3y + (3y)^2 = (2x - 3y)^2$
$a^2 - b^2 = (a+b)(a-b)$ は、2つの項がともに「何かの2乗」であり、それらが引き算で結ばれているときに使います。
例:$x^2 - 16 = x^2 - 4^2 = (x+4)(x-4)$
例:$9a^2 - 25b^2 = (3a)^2 - (5b)^2 = (3a+5b)(3a-5b)$
✕ 誤:$x^2 + 9 = (x+3)(x-3)$ と因数分解する
○ 正:$x^2 + 9$ は有理数の範囲では因数分解できません。$(x+3)(x-3) = x^2 - 9$ であり、$x^2 + 9$ とは異なります。
引き算($a^2 - b^2$)なら因数分解できるが、足し算($a^2 + b^2$)はできない。 この違いを見落とすと、存在しない因数分解をでっちあげてしまいます。
$x^2$ の係数が $1$ の2次式 $x^2 + px + q$ の因数分解では、 「足して $p$、掛けて $q$」になる2数 $a, b$ を見つけます。 見つかれば $x^2 + px + q = (x+a)(x+b)$ です。
例:$x^2 + 7x + 12$ を因数分解する。 足して $7$、掛けて $12$ になる2数 → $3$ と $4$。 よって $x^2 + 7x + 12 = (x+3)(x+4)$。
例:$x^2 - 5x + 6$ を因数分解する。 足して $-5$、掛けて $6$ になる2数 → $-2$ と $-3$。 よって $x^2 - 5x + 6 = (x-2)(x-3)$。
$(x+a)(x+b)$ を展開すると $x^2 + (a+b)x + ab$ です。 つまり、$x$ の係数は $a+b$(2数の和)、定数項は $ab$(2数の積)です。
因数分解ではこれを逆にたどります。 $x^2 + px + q$ が与えられたら、$a + b = p$ かつ $ab = q$ を満たす $a, b$ を見つければよい。
探し方のコツ:先に定数項 $q$ の約数の組み合わせを書き出し、 その中から和が $p$ になるペアを探します。 掛け算の組み合わせは有限個なので、すべて試せます。
$x^2$ の係数が $1$ でない場合、たとえば $2x^2 + 7x + 3$ のような式の因数分解には たすき掛けを使います。
$acx^2 + (ad+bc)x + bd = (ax+b)(cx+d)$ という公式で、 $a, b, c, d$ の組み合わせを見つける方法です。
例:$2x^2 + 7x + 3$ を因数分解する。 $2x^2$ の係数の分解:$2 = 1 \times 2$。 定数項の分解:$3 = 1 \times 3$。 たすき掛けで $1 \times 3 + 2 \times 1 = 5$(不一致)、$1 \times 1 + 2 \times 3 = 7$(一致!)。 よって $2x^2 + 7x + 3 = (x + 3)(2x + 1)$。
$Ax^2 + Bx + C$ を因数分解するとき:
1. $A = ac$ となる $(a, c)$ の組を列挙する
2. $C = bd$ となる $(b, d)$ の組を列挙する
3. $ad + bc = B$ を満たす組み合わせを探す
4. 見つかれば $(ax + b)(cx + d)$ が答え
✕ 誤:$6x^2 + x - 2$ で、$6 = 2 \times 3$、$2 = 1 \times 2$ として正の数だけで試す
○ 正:定数項が負のとき、$b$ と $d$ の符号は異なります。 $-2 = 1 \times (-2)$ または $(-1) \times 2$ のように、負の場合も含めて組み合わせを探す必要があります。
$6x^2 + x - 2$:$2 \times 2 + 3 \times (-1) = 1$(一致)。よって $(2x - 1)(3x + 2)$。
因数分解の公式を個別に覚えても、実際の問題で「どの公式を使えばいいか」がわからなければ意味がありません。 ここでは、与えられた式を見て最適な公式を選ぶための判断フローチャートを整理します。
どんな式を因数分解するときも、以下の順番で考えます。
Step 1:共通因数をくくり出す(最優先。これが見つかれば必ず先にやる)
Step 2:項の数と形から公式を選ぶ
・2項 → 平方の差 $a^2 - b^2$、または3乗の公式を疑う
・3項 → 完全平方式か? → 「足して $p$、掛けて $q$」か? → たすき掛けか?
・4項以上 → 組み合わせの工夫(2項ずつまとめる)、最低次の文字で整理
Step 3:結果をさらに因数分解できないか確認する(因数分解は「できるだけ」分解する)
| 式の特徴 | 使う公式 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 共通因数がある | くくり出し | 必ず最初に実行。くくり出した後、カッコ内をさらに因数分解 |
| $A^2 - B^2$ の形(2項) | 公式3 | 各項が「何かの2乗」で引き算になっているか |
| $A^2 \pm 2AB + B^2$ の形(3項) | 公式1・2 | 両端が2乗、真ん中が2倍の積か |
| $x^2 + px + q$($x^2$の係数が1) | 公式4 | 足して $p$、掛けて $q$ の2数を探す |
| $ax^2 + bx + c$($a \neq 1$) | 公式5(たすき掛け) | $a$ と $c$ の因数分解を列挙し、たすき掛けで確認 |
$3x^2 - 12$ を因数分解してみましょう。
Step 1:共通因数を確認。$3x^2$ と $-12$ に共通因数 $3$ がある。
$$3x^2 - 12 = 3(x^2 - 4)$$
Step 2:カッコ内 $x^2 - 4$ の形を見る。2項で、$x^2 - 2^2$ の形。平方の差(公式3)が使える。
$$3(x^2 - 4) = 3(x + 2)(x - 2)$$
Step 3:$(x+2)$ と $(x-2)$ はこれ以上因数分解できない。完了。
もし Step 1 の共通因数のくくり出しを忘れると、$3x^2 - 12$ に直接たすき掛けを適用しようとして 無駄に苦労することになります。「まず共通因数」を徹底してください。
因数分解は、有理数の範囲でこれ以上分解できなくなるまで行います。 たとえば $x^4 - 16$ を因数分解するとき、次のようになります。
$x^4 - 16 = (x^2)^2 - 4^2 = (x^2 + 4)(x^2 - 4)$
ここで止めてしまう人がいますが、$x^2 - 4 = (x+2)(x-2)$ とさらに因数分解できます。 一方、$x^2 + 4$ は有理数の範囲では因数分解できません。
最終結果:$x^4 - 16 = (x^2 + 4)(x + 2)(x - 2)$
因数分解では通常「係数は有理数の範囲」という暗黙の約束があります。 この範囲では $x^2 + 1$ は因数分解できません。
しかし、数の範囲を広げると話が変わります。 複素数の範囲では $x^2 + 1 = (x + i)(x - i)$($i$ は虚数単位)と因数分解できます。 大学の代数学では、「どの数の範囲(体)で因数分解するか」が重要なテーマになります。
高校の問題で「実数の範囲で因数分解せよ」と指定されることがあります。 この場合、$x^2 - 2 = (x + \sqrt{2})(x - \sqrt{2})$ のように無理数の係数も許されます。 範囲の指定がなければ、有理数の範囲で答えてください。
因数分解の基本パターンと判断手順を学びました。 ここで、因数分解が数学の他の分野とどのようにつながっているかを整理しましょう。
| パターン | 式の特徴 | 使う公式 |
|---|---|---|
| A:共通因数 | 各項に共通な因数がある | $MA + MB = M(A+B)$ |
| B:完全平方 | $a^2 \pm 2ab + b^2$ の形 | $(a \pm b)^2$ |
| C:平方の差 | $a^2 - b^2$ の形 | $(a+b)(a-b)$ |
| D:和と積 | $x^2 + px + q$($x^2$ の係数が1) | $(x+a)(x+b)$(足して $p$、掛けて $q$) |
| E:たすき掛け | $ax^2 + bx + c$($a \neq 1$) | $(ax+b)(cx+d)$ |
| F:組合せ | A〜Eの複合・4項以上 | 項のグルーピング、最低次の文字で整理 |
Q1. 因数分解と展開の関係を一言で説明してください。
Q2. $6x^3 - 18x^2 + 12x$ を因数分解してください。
Q3. $x^2 - 10x + 25$ を因数分解してください。
Q4. $x^2 + 4$ は有理数の範囲で因数分解できますか? 理由も述べてください。
Q5. $3x^2 + 10x + 3$ をたすき掛けで因数分解してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の式を因数分解せよ。
(1) $x^2 - 8x + 16$
(2) $4a^2 - 9b^2$
(3) $x^2 + 3x - 28$
(1) $(x - 4)^2$
(2) $(2a + 3b)(2a - 3b)$
(3) $(x + 7)(x - 4)$
(1) 方針:$x^2 - 8x + 16 = x^2 - 2 \cdot x \cdot 4 + 4^2$。完全平方式(公式2)を使う。
$= (x - 4)^2$
(2) 方針:$4a^2 - 9b^2 = (2a)^2 - (3b)^2$。平方の差(公式3)を使う。
$= (2a + 3b)(2a - 3b)$
(3) 方針:$x^2$ の係数が $1$。足して $3$、掛けて $-28$ の2数を探す。$7 + (-4) = 3$、$7 \times (-4) = -28$。
$= (x + 7)(x - 4)$
次の式を因数分解せよ。
(1) $5x^2 - 20$
(2) $2x^2 + 12x + 18$
(1) $5(x + 2)(x - 2)$
(2) $2(x + 3)^2$
(1) 方針:まず共通因数 $5$ をくくり出す。$5x^2 - 20 = 5(x^2 - 4)$。カッコ内は平方の差。
$= 5(x + 2)(x - 2)$
(2) 方針:まず共通因数 $2$ をくくり出す。$2x^2 + 12x + 18 = 2(x^2 + 6x + 9)$。カッコ内は完全平方式。
$= 2(x + 3)^2$
いずれも「まず共通因数をくくり出す」ことで、公式が適用しやすい形になります。
次の式を因数分解せよ。
(1) $6x^2 + 7x - 3$
(2) $4x^2 - 12xy + 9y^2$
(1) $(2x + 3)(3x - 1)$
(2) $(2x - 3y)^2$
(1) 方針:$x^2$ の係数が $6$、定数項が $-3$。たすき掛けを使う。
$6 = 2 \times 3$、$-3 = 3 \times (-1)$ とすると、たすき掛けで $2 \times (-1) + 3 \times 3 = -2 + 9 = 7$(一致)。
$= (2x + 3)(3x - 1)$
検算:$(2x+3)(3x-1) = 6x^2 - 2x + 9x - 3 = 6x^2 + 7x - 3$ ✓
(2) 方針:$4x^2 = (2x)^2$、$9y^2 = (3y)^2$、$12xy = 2 \cdot 2x \cdot 3y$。完全平方式。
$= (2x)^2 - 2 \cdot 2x \cdot 3y + (3y)^2 = (2x - 3y)^2$
次の式を因数分解せよ。
(1) $x^2 - y^2 + x + y$
(2) $(x+y)^2 - 4(x+y) + 4$
(1) $(x + y)(x - y + 1)$
(2) $(x + y - 2)^2$
(1) 方針:4項あるので、グルーピングを考える。$x^2 - y^2 = (x+y)(x-y)$ と因数分解でき、残りの $x + y$ と共通因数 $(x+y)$ を持つ。
$x^2 - y^2 + x + y = (x+y)(x-y) + (x+y)$
$= (x+y)\{(x-y) + 1\} = (x+y)(x - y + 1)$
(2) 方針:$x + y$ を1つのかたまり($A$ とおく)と見る。$A^2 - 4A + 4 = (A - 2)^2$。
$= (x + y - 2)^2$
※ おき換えを使わず直接 $(x+y)^2 - 2 \cdot (x+y) \cdot 2 + 2^2$ と見ても同じ結果になります。